日本病院会正副会長|2022年頭所感

一般社団法人日本病院会

コロナ禍を糧に新たな医療提供体制を
―グランドデザインを創り病院の新たな未来を拓く―

 2022年は寅(とら)年ですが、本来の干支でいうと壬寅(みずのえとら)であり「新しく立ち上がること」や「生まれたものが成長すること」といった縁起のよさを表しています。
 新型コロナウイルス感染症の拡大はわれわれの生活や社会に大きな影響を与え〝非接触・非対面〟による新たな日常や仕事も当たり前になりました。その新型コロナウイルス感染症も今は新規感染者が激減し、終息はしていないものの落ち着いた状況になっています。
 コロナ禍に翻弄された我が国は起きた事実を真摯に分析し希望ある未来を創る為に活かさなければならないと思います。壬寅である本年は、我が国に新たな芽が生まれ、新たな成長が始まる年になって欲しいと強く願っています。
 コロナ禍により生じた医療のひっ迫は我が国の医療提供体制の脆弱さを国民の目前にさらけ出すことになりました。医療ひっ迫の主な要因の一つが病院の機能分化と役割分担及びその機能に伴う病院の責務が不明確であったことです。我が国の医療提供体制は、主として1985年から開始された医療計画と2014年から始まった病床機能報告を基にした地域医療構想により構築されてきましたが、コロナ禍はこれらが適切な医療提供体制の構築には全く役立っていなかったことを明らかにしました。この事実と今後急速に変化する人口構造とこれに伴う医療需要の変化を合わせて考えると新たな医療提供体制を早急に構築することが喫緊の課題となります。
 われわれは病床の機能とその数のコントロールを目的とした地域医療構想を捨て、これからの時代の医療需要に見合った新たな医療提供体制を構築するための一歩を踏み出さなければなりません。まず、地域包括ケアを構築する地域範囲における入院医療需要をどこにあるどのような病院がどれくらい受け止めるのが望ましいのか、その病院では手に余る入院医療需要を受け止める病院はどのような機能が必要で、どの地域範囲でどれくらいどこにあるべきか、これを現在の病院の存在場所とその病院が現在発揮している入院医療機能を基にして、変化する入院医療需要に見合う医療供給を的確に行うための医療提供体制を適切な地理的範囲ごとに描く(グランドデザイン)べきです。世界に冠たる医療制度が危機に瀕している我が国にとって、このグランドデザインを、国、国民、保険者、医療界が利害を超えて一致団結して描くことが必要です。医療需要に見合った適切な医療を実現するためには、その地域に存在する病院がその地域における入院医療提供体制についてグランドデザインを基に地域の住民や行政と共に意見を戦わせ、地域ごとに合意を形成することが必要です。
 グランドデザインなくして医療制度改革はありえないとの信念をもって、病院医療の明るい未来を創造するために邁進する年にしたいと思います。

相澤孝夫
一般社団法人 日本病院会 会長 相澤孝夫


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